印刷マニアック

偽造防止! 世界の紙幣とその肖像画の秘密に迫る

なぜ、紙幣には肖像画が使われているのか?

紙のお札(紙幣)にはなぜ歴史上の人物などの肖像画が多く使われているのでしょうか? それには偽造防止に関する重要な理由があります。

1. 肖像画をデザインするのは偽造を防止するため

セキュリティ面で紙幣に肖像画をデザインすると偽造を困難にする効果があります。

  • 高度な細部の再現が必要: 肖像画には細かい線、陰影、顔の特徴など、非常に繊細なディテールが含まれています。これら細部を正確に偽造するには高度なスキャニング技術と精密な作業が必要であり、偽造を不可能にします。
  • 識別しやすい「顔」の特長: 人物の顔とその表情は、人間の脳が最も記憶に残しやす、識別しやすい対象です。目つきが違う、口元がおかしいなど、わずかな違和感でもはっきりと偽造を発見することができます。
  • 心理的障壁の構築: 紙幣に肖像画を用いることは、国民にとってのアイデンティティの表現や、国の価値観、歴史を象徴する方法としても機能します。肖像画を偽造することの罪深さが犯罪者の動機を減退させます。

2. 世界には肖像画を使用しない紙幣がある?

肖像画を使用しない国とその紙幣は意外にも多く存在します。そのうちの3つの通貨を紹介します。

ユーロ〔EUR〕紙幣のデザインは、ヨーロッパの統一と多様性を象徴するさまざまな時代の建築様式の窓や門をモチーフにしています。これらのデザインは架空のものであり、実在の建造物を表しているわけではありません。

スイスフラン〔CHF〕は自国の文化、科学、技術を象徴する抽象的な図案を採用しています。最新シリーズでは、手、時計の透かし、光のスペクトルなど特定のテーマに沿ったデザインが特長的です。世界一オシャレな紙幣と呼ばれることもあります。

ノルウェークローネ〔NOK〕は、世界の主要海洋国家にふさわしい海のデザインが多用されており、人物の肖像は含まれていません。海、船、海の生物などが北欧独特のデザインで描かれています。

3. アジア諸国の紙幣は肖像画のデザインが多い

アジア各国の歴史、文化、独立運動などにおいて重要な役割を果たした人物の肖像画をデザインに用いていている紙幣が多くみられます。国民に共通の誇りやアイデンティティを提供しています。

中国人民元〔CNY〕: 肖像画の人物は毛沢東です。現行の人民元紙幣のほとんどに毛沢東の肖像が描かれています。

韓国ウォン〔KRW〕: 千ウォン紙幣には李舜臣(イ・スンシン)、五千ウォン紙幣には金九(キム・グ)、一万ウォン紙幣には世宗大王(セジョンデワン)など歴史的な人物が描かれています。最高額の五万ウォンは女性の申師任堂(シン・サイムダン)です。

シンガポールドル〔SGD〕: すべての現行紙幣にシンガポール初代首相のリー・クアンユーの肖像が描かれています。同一人物の同一肖像画のため、金額の違いをブルーやオレンジ色の印刷で刷り分けています。

マレーシアリンギット〔MYR〕: 最新の紙幣には、第一代国王アブドゥル・ラーマンと現在の国王の肖像が描かれています。マレーシアの国王は5年ごとに交代するため、紙幣に描かれる国王の肖像画も変わる可能性があります。

タイバーツ〔THB〕: かつての紙幣には、現国王の父であるプーミポン・アドゥンヤデート(ラーマ9世)が描かれていました。現在は国王マハ・ワチラロンコン(ラーマ10世)がデザインされています。

インドネシアルピア〔IDR〕: 一万ルピア紙幣にはスカルノ初代大統領とハッタ初代副大統領が描かれています。千ルピアの女性はアチェ王国の兵士チュ・ニャ・ムティア(オランダ軍侵攻に抵抗した英雄)です。日本でタレント文化人として活躍しているデヴィ夫人(スカルノ大統領夫人)ではありません(念のため)。

4. 日本の高い印刷技術で他国の紙幣を印刷している

日本の国立印刷局は、高度な印刷技術と厳重なセキュリティ体制を持ち、世界の複数の国々の紙幣やパスポートなどのセキュリティ印刷物を製造しています。技術的な制約やセキュリティ上の懸念から自国で紙幣を印刷できない国々は日本の国立印刷局に紙幣の印刷を依頼することがあります。

過去に公開された情報や報道によると、日本の国立印刷局はバングラデシュ、スリランカ、タイ、マレーシアなどの国々で使用される紙幣の印刷を担当したことがあるとされています。

紙幣印刷においては、偽造防止印刷技術の導入、特殊インクの使用、紙質の選定など、高度な技術が要求されます。日本の国立印刷局はこれらの技術を有しており、その技術力が国際的にも認められています。

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