世界一わかりやすい「印刷会社のDX」解説【その2】
1. デジタルデータがある程度揃っていたら…
【その1】で解説したデジタルデータが社内にある程度揃っていたら、データをつなげる「情報の共有化」・「数値の見える化」のステップ、つまりDX推進へのステップに入りましょう。
「えっ!? ちょっと待って! デジタルデータってどんな種類のデータ? ある程度揃っているって、どの程度揃っていることを言っているの?」
そうですよね…。そう質問したくなっちゃいますよね。その気持ちはとてもよくわかります。
まず、前回コラム【その1】のおさらいから始めます。
図1.はまだ印刷工程にも入っていませんが、この段階でも多くのデジタルデータが存在していましたね。
顧客情報/標準原価/粗利益/受注情報/発注情報/作業指示/生産予定
これらを共有化・見える化でつないでいるのが「デジタル的なシステム」です。これを一般的には基幹システムと呼びます。基幹システムのとらえ方にもいろいろありますが、本稿では印刷会社に必要なデジタルデータの共有化・見える化に焦点をあてて解説していきます。
2. 印刷会社の基幹システムとは?
印刷会社で必要となる基幹システムの機能をざっと挙げると下表の通りです。複数のシステムやエクセルを組み合わせて機能させていても基幹システムと呼びます。
主機能 | 詳細機能 |
---|---|
見積管理 | ・見積計算 ・見積書出力 ・見積検索・分析 |
受注管理 | ・見積→受注処理 ・注文請け書出力 ・受注検索・分析 |
生産管理 | ・受注→作業指示 ・作業指示書出力 ・外注(仕入れ)発注 ・生産計画 ・作業日報(時間)作成 ・工程管理 |
売上管理 | ・売上処理 ・外注(仕入れ)確定 ・売上集計・分析 ・粗利益集計・分析 ・売上データ出力(納品書他) |
売掛管理 | ・請求締処理 ・請求書出力 |
入金処理 | ・入金登録 ・債権の明細消し込み |
その他 | ・在庫管理、棚卸など |
基幹システムを使うことで、業務に必要なデジタルデータを全社的に共有化・見える化ことができます。例えば、印刷会社の経営者がリアルタイムに今月の売上や債務状況を見たり、工場マネージャーや現場オペレーターが瞬時に生産計画の変更状況を把握したりすることができます。リアルタイムで最新情報を得ることで素早い経営判断につなげることができるので、MIS(Management Information System)とも呼ばれます。
3. 中小印刷会社にMISは本当に必要なのか?
「ウチは5人くらいの印刷会社なんだけど、MISとか情報の共有化・見える化なんて必要ないよ! 見える化って言うより、すでに見えてるんだよね。現場も営業も。社長の私が営業しているんだから、いつもバタバタしていて、経営判断って言われてもナカナカ時間がなくてねー」
日本の印刷会社の従業者別構成比を見ると、下図2.の資料の通り、3人以下で53.5%、9人以下で74.4%を占めています。つまり10人未満で7割以上です。何もリアルタイムで売上・粗利益管理をしなくても、受注一点あたりの損益計算をチクチク確認しなくても、だいたい今月は儲かっているかどうかは社長が常に肌身で感じている、ということなんですね。
4. ここに印刷会社のDXが進まない理由がある?
DXを進めるには、印刷会社の社内にある程度デジタルデータが揃っていることが前提条件であると解説してきました。中小印刷会社は従業者数10人未満が過半数を占めているため「すでに見えている」ので情報の共有化・数値の見える化の必要を感じていないので、DXの必要性も2テンポ以上遅れて感じられないのかもしれません。
仮に、特別なIT知識が一切不要で、簡単に手軽に、すぐに社内をDX化できるとしたら、どんな情報・数値を共有・見える化したいですか?
この質問に即座に返答できる印刷会社の経営者は本当に少ないのかもしれません。
そこで次回は視点を変えて、「バタ貧(ばたびん)」[*2]と「アジャイル」という2つの新ワードを用いてDXを切り倒してみます。【その3】に続きます。
参考文献
- [1] 公益財団法人日本印刷技術協会(JAGAT).藤井健人「印刷界OUTLOOK “事業所数”」.『JAGAT info(ジャガットインフォ)』.2023年2月号
- [2] 九鬼政人(2004).『愛のバタバタ貧乏脱出大作戦!! 〈バタ・貧〉シリーズ』.総合法令出版
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