印刷マニアック

減っていく伝票印刷会社 今や簡単に作れないオリジナル伝票

身の回りの伝票、最近ではどんなものがありますか。領収書や荷物の送り状、契約書、申込書、運転日報などビジネスに関わる伝票は未ださまざま存在しますが、日常生活の中で目にする機会はぐんと減ったのではないでしょうか。いまや宅配業者からお届け先控を受け取ることも、飲食店では卓上タッチパネルが増え手書きのオーダー票を見ることも、レシート形状ではない領収証などを手にする機会も少なくなってきています。

このように紙の伝票の需要が減ってきているのに比例して、実は伝票を作れる印刷会社も減少しています。ここでは伝票の現状と紙の伝票の魅力をお伝えします。

伝票・封筒印刷から始まった富沢印刷

創業62年。1960年から始まった富沢印刷はもともと伝票印刷を中心とした事務用品を製造していました。当時、高度経済成長期にあった日本は出版・広告業界の成長に伴って印刷業界も順調に成長を遂げていました。そんな時代に先駆けて当社の創業者である富沢久光、勝利は兄弟で小さな印刷会社をスタートさせました。

富沢印刷創業者
(創業者:左端 富澤勝利 右端 富澤久光)

当社ではいまとなっては珍しい、ナンバーを打ちながら同時に印刷が出来る伝票専門のハシモトという印刷機があります。導入して30年経った古い機械ではありますがこまめなメンテナンスの甲斐あり、いまでも現役で毎日稼働しています。
伝票から始まった当社ですが残念なことに時代の波には逆らえず、伝票の受注件数はここ10年の間に半分以下になっているのが現状です。

廃業していく専業製本会社

伝票ができる印刷会社が減っている背景には専業の製本会社が減少が挙げられます。全日本製本工業組合連合会によると組合員数は最盛期の1975年には2352社だった製本会社は現在700社以下となり、7割もの会社がなくなっています。廃業には大きく分けて以下の2点が原因とされています。(参考:日本印刷新聞社)

1.賃金問題

伝票製本原価の半分以上が人経費です。印刷会社は資源原材料価格の上昇をきっかけに価格の交渉をできても、製本屋にはそのチャンスがなかなか訪れませんでした。日本の最低賃金が上がっている中、製本加工価格は据え置きのまま。20年前と同じ価格で製本加工をしている製本会社もあり経営は苦しくなるばかりです。

2.後継者問題

同業が廃業していく一方で、残された製本会社に仕事が集中しキャパシティーを超えるほどの仕事が集まっているところもあります。そんな活気のある黒字経営の会社でも後継者不在で店じまいすることは少なくありません。中小企業における廃業の理由の3割は後継者不在によるものなのです。

当社が長年お世話になっていた製本会社も廃業してしまい、製本会社の減少を肌で感じています。印刷会社は製本会社とながく共存するためにも後加工に対する理解を深める必要があると言えます。

 

ネット注文の難しい伝票

価格の安いネットプリントも利用することが普通になってきた昨今ですが、オリジナルの伝票に対応しているネットプリント会社はあまりありません。”まだない”のではなく、これから先も伝票対応のネットプリントが増えることはないでしょう。伝票ができると謳っているところも、既製のフォーマットに名入れができるだけで細かな変更ができないところが多いようです。

 

結局消滅することのない伝票

テレワーク導入により進むペーパーレス化?!

コロナによりテレワークという働き方が増えました。大手企業の取引先ではテレワークを後押しするツールの開発が急ピッチで進められ、伝票などを扱う管理部門においてもテレワークの導入が進みました。最近ではペーパーレスを謳うクラウド型経理システムのCMをよく目にしますよね。
しかしながらわれわれのような中小企業では思うように導入が進まないのが現状です。わが社においてもこのシステムを使う取引先は数えるほど。いまだに、手書きの帳簿を付けている企業すらあるほどです。

企業の要となる伝票

オリジナル伝票というものはかつてどの会社にも存在していました。当然その伝票は個々の企業の業務フローをしっかり理解した上で作られていました。仕様も作業に関わる人数により3枚複写にしたり5枚複写にしたり、その後保管するものであればファイリング用に2穴をあけたり、自社製品のサイズに適するようにサイズを決めたりしていました。オリジナル伝票というものは属する企業を熟知した業務の中心にいる存在でもあったのです。

紙と手書きの安心感と信頼感

紙というものは謎の信頼感というか安心感がありませんか。わたしの新米時代、IT業界に飛び込み営業に行き営業トークを聞いてもらう事ができたのですが、目も合わせることなくパソコンをカタカタさせながら話を聞く姿に恐怖を感じたものです。きっと大事なことをメモしてくれていたのでしょうがペンを手にメモをとる姿と比べるとだいぶ印象が違います。なぜか紙に記入する姿というものは安心感があり人と人のコミュニケーションを邪魔しません。

「人と人の間に入り込むことができる紙。デジタル機器ではそっけない」。古い考えではありますが、意外と大多数の感覚ではないでしょうか。

おわりに

10年ほどの前の営業では、「伝票なんて印刷物の基本、できて当たり前」という空気感がありました。しかし昔ながらの印刷屋や製本屋が次々と廃業していく中、いまでは「え、伝票ができるの?」と驚かれることすらあります。これは印刷業業に携わるものとしてはなんとも不思議な反応に感じます。
伝票の仕事が徐々に減ってきているのは事実ではありますが、5年後10年後に伝票が消滅するというのは考えにくいのではないでしょうか。

当社ではいまとなっては嫌厭されがちなオリジナル伝票も大歓迎しますので、ぜひご注文をお待ちしております。

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