印刷会社のDXが進まない理由【その3】
1. バタ貧とは?
「バタ貧」(読み:バタビン)は、ランチェスター経営[*1]を提唱した竹田陽一氏(1938-)の造語ですが、本稿では九鬼政人著『愛のバタバタ貧乏脱出大作戦!!』[*2]をベースに解説していきます。
「いやー、今ちょっとバタバタしていて」が口癖で、その反面、会社はたいして儲かっていない、そんな経営者のこと(もしくは経営状態)を「バタ貧」(九鬼著書では「バタ・貧」と表記)と言います。
九鬼氏は、いくつかのキャリアを経たのち損保代理店を個人経営していました。土日休日もかまうことなく、お客様のために独りで業務を切り盛りしているうちに「バタ貧」に陥りますが、そこから抜け出すために次のような発想の転換を果たしました。
独りで新規開拓、既存顧客のフォロー営業、事務処理、損保会社とのやり取り、経理業務すべてを行っているからバタ貧。
<発想の転換>
▶自分の分身となる営業マンを雇う。すると自分が昼夜問わず事故現場やお客様のもとに馳せ参じる必要がなくなる、自らレポートを書く必要がなくなる。
▶次に営業マンの管理という仕事が発生する。その部分にも人を雇えば、自分が働かなくてもビジネスが回る。事務処理、経理事務も同じように人を雇えば、自分が動かなくても会社がまわる。
2. DXは同じこと
DXとはデジタル技術によってデータを活用して経営者の分身を作ることです。また、同様に営業マンの分身を作ってあげること、経理担当者の分身を作ってあげること、印刷現場オペレーターの分身を作ってあげることです。DXによって経営者は会社の戦略を考え、全社で実践できる仕組みを作ることに心血を注ぐことができるようになるのです。
3. 印刷業界でDXが進まない理由
1) 印刷業は成熟産業と言われています。独立してゼロから起業した経営者が極端に少ないのです。現在の印刷会社の経営者の多くは2代目、3代目、4代目で家業を引き継いだ人です。そのため、独りでバタ貧に陥ったことはなく、自分のデジタル分身が必要と感じる機会が少ないと考えられます。
2) 2代目の社長が社員5人の会社の後を継いだとしても、すでに社員5人の役割、働き方が決まっているため、DXで変革を起こそうという動機が少ないとも考えます。社員100人の会社の跡継ぎでも同じことです。特に印刷業は前回見本の通り刷色も文字も狂いなく100冊でも10,000冊でも同じものをリピート製造する仕事です。前回見本を捨てて、新しいことに挑戦することは時として非効率的で悪とされます。
3) デジタルデータによる変革を恐れるのは「結果を見るのが怖い」からとも言えます。受注一点別損益データをリアルタイムにチェックできるDXの仕組みを構築したならば、儲かっている仕事、赤字の仕事が一目でわかるようになります。赤字の仕事を黒字化する仕組みを考えて、営業マンの見積計算に活かすことが経営者の仕事になるわけですが、「バタバタしていたので…」というお決まりの文句は社長としての責任逃れをしようとしているとこに他なりません。データは決して嘘をつくことはありません。客観的なデータをもとに自社の本当の姿を知ってこそ戦略を立案できるのです。
4) 経営者が自分以外のヒト・モノのせいにして言い訳を続けているケースも残念ながら見られます。「ウチにはITに明るい人材がいない」、「デジタルツールはややこしくて、導入しても使いこなせない」など枚挙にいとまがありません。こうしたバタ貧を断ち切り覚悟と決断をする時だと考えます[図1]。それとITやデジタルは今や本当に使いやすいツールになっていることをわかっていただければと思い、【その4】で「アジャイル」の考え方を解説します。
世界一わかりやすい「印刷会社のDX」解説【その4】につづきます。
追伸:『愛のバタバタ貧乏脱出大作戦!! 〈バタ・貧〉シリーズ』が九鬼氏の処女作であり遺作であることを筆者は今回、初めて知りました。[*3] 引用者として、経営者として心からご冥福をお祈りいたします。
参考文献
[1] ランチェスター経営株式会社.“ランチェスター戦略・ランチェスター法則のことならランチェスター経営株式会社”.(2023) https://www.lanchest.com/
[2] 九鬼政人(2004).『愛のバタバタ貧乏脱出大作戦!! 〈バタ・貧〉シリーズ』.総合法令出版
[3] ランチェスター経営伊佐.”愛のバタバタ貧乏脱出大作戦!! 九鬼政人様の遺作”「伊佐@ランチェスター経営、一言(多い?)ブログ」.2008-04-30.伊佐康和. https://isakigyou.livedoor.blog/archives/529613.html
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