デジタルマニアック

DX【その1】— 今さら聞けない、印刷会社にとってのDXとは?

世界一わかりやすい印刷会社のDX【その1】

1. 改めてDXを考えてみましょう

新型コロナウイルスがようやく落ち着きを見せ始めた2023年の日本ですが、皆さま、そういえばコロナ中で「DX」、「DX」って声高に騒がれていませんでしたか? 私たち印刷業界ではDXは進んでいるんでしょうか? 筆者は、現在の印刷業界にとって、さらには日本のビジネス全体にとって、DX推進は将来の各企業の明暗を分ける非常に重要なイシューだと考えています。

まずは、わかっているようでわからいことが多いDXそのものとは何かを解説していきます。ネット上では多くのIT企業・コンサルタントがDXを解説していますが、その中で印刷業界には以下の解説文が最も適している思いましたので引用します。[*1]

(DXとは)企業がAI、IoT、ビッグデータなどのデジタル技術を用いて、業務フローの改善や新たなビジネスモデルの創出だけでなく、レガシーシステムからの脱却や企業風土の変革を実現させること…

宇野智之(2020)Monstarlab Blog

どうですか? えっ、わかりにくい?! では、もっと簡単に解説します。

2. 印刷会社にとってのDXとは? (業務フローの改善)

皆さまの会社ではこんな業務フローはありませんか?

図1. 印刷会社の業務フロー
  • 〔営業〕印刷見積をエクセルで作成 →
  • 〔営業〕お客さまと電話折衝、見積金額を変更、受注 →
  • 〔営業〕受注情報、受注金額を受発注システムに入力 →
  • 〔営業〕協力会社(製本会社)へ電話で製造予定取り →
  • 〔工務〕協力会社(用紙卸商)へ電話で発注、作業指示書作成、工場予定組み →

この業務フローに問題はないようですが、DXという観点から、一つだけ重要なことが欠如しています。それはデータです。もう少し踏み込んで表現するならデジタルデータです。そして、そのデジタルデータが各部門間(図1.では営業と工務)でつながっていないことにも問題があります。

3. 印刷会社のDXに必要なもの(前提条件)

「デジタルデータ」を言い換えると「情報」・「数値」といっても良いでしょう。そのデータが「つながっている」とは「情報の共有化」・「数値の見える化」のことです。これらがある程度揃っていないと印刷会社のDXは始まりません(言い切ります!)。

図2. 情報・数値(デジタルデータ)がつながっている(共有化・見える化)ということ

図2.のように、各業務を遂行するにはデータ(情報・数値)が存在しているはずで、そのデータが共有化・見える化されているデジタル的なシステムがあれば、各業務の遂行品質・実行速度が改善され、最終的な経営のゴールである粗利益の確保、労働生産性の向上、顧客満足度アップにつながります。

具体的には: 以下の情報・数値の共有化・見える化による業務フローの改善が考えられます。

  • システムで見積作業を行えば、営業個人は、顧客情報、社内仕切り単価(標準原価)、粗利益率が「見える」のと同時に社内で他の営業の見積情報を「共有」できます。
  • システムで見積作業を行えば、お客さまとの折衝時に見積額の下方修正幅と粗利益減少率が「見える」ようになります。受注確定時に社内で受注情報を「共有」できます。
  • 受注情報や受注金額を別の受発注システムに入力し直す作業がなくなり、工務は協力会社(製本会社・用紙卸商)へ電話ではなく電子メールで発注することができます。
  • の作業がなくなります。工務は製本会社へ自社の生産状況に合わせて適時必要な時にメールで連絡できます。製本会社は作業の手を止めて予定組みをする必要がなくなります。
  • 営業からの受注データが工務とシステムでつながっていれば、作業指示書作成の作業が短縮できます。同時に工場予定組みが短時間ででき、工場全体にシステムで「見える化」されていれば、工場の各作業オペレーターが生産予定をリアルタイムで知ることができます。

「ということは、DXとはエクセルや手書きの伝票・指示書をなくすことなの?」
そうではありません。無理に手書きからデジタル入力に移行することがDXではありません。ただし、デジタルデータがある程度揃っていると「情報」・「数値」が「共有化」・「見える化」しやすいということです。

「ということは、DXとは見える化のことなの?」
そうでもありません。印刷会社の見える化には、さまざまな考え方、とらえ方があり、本来の見える化の考え方は本コラムで解説しているDXとは異なります。本来の見える化の考え方をもっと知りたいという読者の皆さまは参考文献[2]・[3]をご覧ください。ただし、見える化の仕組みがある程度整っていないとDX推進は難しいと言わざるを得ませんので、この点はご留意ください。

したがって、情報・数値の共有化・見える化はDXを進めるにあたっての前提条件です。

世界一わかりやすい「印刷会社のDX」解説【その2】につづきます。

参考文献

\デジタル・印刷に関するご相談・ご依頼はこちらから/

関連記事

最近の記事
ぎぞらーず
  1. 生成AI(生成塗りつぶし)の使い道

  2. drupa2024 保存

  3. 「文字が隠れる」偽造防止印刷技術 まとめ

  4. 偽造防止の昔と今

  5. 地紋についてのお話

  6. 「ギロッシュ(彩紋模様)」って知っていますか?

  1. ボストン美術館と3人のアメリカ人

  2. Webマーケティング用語「ホワイトペーパー」の語源

  3. トミー・リー・ジョーンズと月岡芳年

TOP