世界一わかりやすい印刷会社のDX【最終回】
1. 攻めのDX
デジタルデータを活用して経営をまわせる仕組みを構築しようとしたら、まずMISのパッケージソフトを導入しなければなりません。エクセルやその他のツールを使ってMISを自社独自で組み立ててもかまいません。それには投資コストがかかります。時間と工数がかかります。同時に社内のルール決めが必要になりますし、作業日報などデジタルデータの入力に不慣れな印刷現場のオペレーターに入力方法やルールを教える研修トレーニングも必要になってきます。こうして<情報・数値>の<共有化・見える化>ができ上がってくるのですが、「ウチは社員5人の会社だから、そんなお金と時間の余裕はないよねー」、「すでに見えてるんで…」と半ば無関心な言葉が先に出るのも当然だと思います。そして、そうした印刷会社の後ろ向きな考え方の根底には「お金と時間と労力をかけて受注一点あたりの粗利益をギチギチ見たって、何も売上が増えるわけではないじゃないか!」、「新しい顧客が獲得できたり、良い仕事が受注できるようになったり、そんな儲かる話が欲しんだよ!」という思考回路から抜け出せていない現状があるのではないでしょうか。
では、「DXを進めたら、売上が増えますよ!」と提言されたら、皆さまはどうお感じになるでしょうか?
「攻めは最大の防御なり」という言葉がよく知られています。印刷会社のDXでは、「防御=『守り』としてのデジタルデータが(ある程度)揃っていないと攻めは到底できませんよ!」と筆者は訴えてきました(コラム【その1】~【その4】)。最終回では、ある程度のデジタルデータが揃ったとして、どのように攻めに転じていけばよいのか、2つの例を挙げて解説していきます。
2. 守りから攻めへ ― 例1としてのRPA
例えば、RPA(Robotic Process Automation)の導入はいかがでしょうか? 現在、アシロボ(assirobo)[*1]やRoboTANGO(ロボタンゴ)[*2]など使いやすいRPAツールがサブスクリプション(約5万円/月から、初期費用別)で購入することができます。
「だから、ウチはそんな余裕なんてないよ!」とおっしゃる読者の皆さまは、(アゲイン)どうぞ本コラム【その4】バタ貧の回をお読み直しください。
RPAで何をやらせるのか? 例えば、日々の仕入れのチェックなどはどうでしょうか? 週単位でのチェックでもかまいません。営業が受注データに入力した仕入れ発注金額と経理が見積書・納品書に基づいて基幹システムに入力した仕入発注金額の差異を洗い出す作業をやらせるのです。
これがどうして攻めなのか? 仕入れ、つまり外注発注費(変動費)は当然のことながら粗利益に直結します。用紙購入や製本などの外注加工費を正確に入力されているかを日単位もしくは週単位で先行管理することは攻めにつながります。月末締めてから翌月送られてくる請求書で誤差をチェックしていては赤字案件に手の打ちようがありません。さらに前倒しして、進行中案件で粗利益が大きく減少もしくは赤字傾向にある案件も日々抽出することが可能となります。例えば大幅なデザイン変更・校正回数増で作業時間が見積金額をオーバーしそう(している)案件を日々抽出することで、営業はお客さまへの事前の金額交渉が可能になります。同時に、営業と生産管理・工務は、安易な外注発注を減らして内製化に取り組もうという意識が高まります。売上増・粗利益増をもってして、これを攻めのDXと言わずして何と言いましょうか。[図1]
3. 例2としてのMA ― それは印刷会社が果たすべき使命
MA(Marketing Automation)も攻めのDXです。MAを導入するためには自社のホームページをパワーアップさせておく必要があります。DXで自社のWebマーケティングを大きく進めるチャンスが広がります。MAを含めたクラウドベースの顧客管理、営業支援ツールをサービスする企業ではセールスフォース社[*3]などがありますが、自社のできる範囲内から始めていくのがよいと思います。また、例えば東京都では東京都中小企業振興公社[*4]が販路拡大・開拓を目的としたWebマーケティングの伴走型支援事業を行っているので、こうした公的な支援事業を活用してMAに取り組んでみるのも得策です。MA・Webマーケティングは印刷会社がお客様へ提供する新しいデジタルサービスとなります。印刷物、特に商業印刷物であるポスター、パンフレット、チラシは、お客さまが「もっと売上を伸ばしたい」、「もっと集客したい」という目的のために作るわけです。デジタルでの拡販・集客でも同じことです。印刷会社はデジタル面でも同様にお客さまの拡販・集客をサポートできるはずです。
「いやいや、ウチは無理だよ。ウチの会社は、お客さまが同業の印刷会社で、下請け仕事が主なので…」
そうでしょうか? そのお客さまも売上増、粗利益増を目指して企業活動をしているんですよね。経営の目的は同じはずです。お客さまである印刷会社のMA・Webマーケティングをサポートし、自社の事業領域の拡大を図ることはできないでしょうか。
4. まとめ
(DXとは)企業がAI、IoT、ビッグデータなどのデジタル技術を用いて、業務フローの改善や新たなビジネスモデルの創出だけでなく、レガシーシステムからの脱却や企業風土の変革を実現させること…
宇野智之(2020)Monstarlab Blog
いかがでしょうか?
- AI = (Artificial Intelligence)エクセルでもRPA、MAでも、AI技術が組み込まれています。
- IoT = (Internet to Things)パソコンですよね。スマートフォンですよね。使っていますよね。
- ビッグデータ = デジタルデータのことですよね。AIとIoTで<情報・数値>の<共有化・見える化>をするんでしたよね。
- 業務フォローの改善 = 「カイゼン」でしたよね。「カイアク」にならないように気を付けてください。
- 新たなビジネスモデルの創出 = デジタル面でも同様にお客さまの拡販・集客をサポートできるはずですよね。
- レガシーシステムからの脱却 = バタ貧乏からの脱出ですよね。
- 企業風土の変革 = 事業領域の拡大で、経営者自身、社員の皆さんが変わっていくことですよね。
つまり、DXとは経営者自身が変革し、それによって社員の皆さんも変革していき、企業全体が変革していくことです。
参考文献
- [1] ディヴォートソリューション株式会社. “【公式】中小企業向けRPAツール|アシロボ(assirobo)”.https://assirobo.com/
- [2] スターティアレイズ株式会社. “【公式】RoboTANGO(ロボタンゴ)”.https://robotango.biz/
- [3] 株式会社セールスフォース・ジャパン.“クラウドベースのCRM/顧客管理システムやSFA/営業支援システム、MA/マーケティングオートメーション”.https://www.salesforce.com/jp/
- [4] 公益財団法人東京都中小企業振興公社.“東京都中小企業振興公社|ホーム”.https://www.tokyo-kosha.or.jp/
- [5] 株式会社モンスターラボ(Monstarlab).“DX(デジタルトランスフォーメーション)とは? 意味・定義をわかりやすく解説”.2020-07-17. 宇野智之.https://monstar-lab.com/dx/about/digital_transformation/
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